トスカーナを代表する生産者、カサノヴァ・ディ・ネリが手がけるブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2015年。豊かな果実味と端正な酸、熟成を経たサンジョヴェーゼらしい緊張感を備え、モンタルチーノの多彩な丘陵Terroirを映す一本です。

Casanova di Neri(カサノヴァ・ディ・ネリ)は、1971年にジャコモ・ネリがトスカーナ州シエナ県モンタルチーノで創業した生産者です。当時からブルネッロ・ディ・モンタルチーノの将来性を見据え、土地ごとの個性を丹念に読み解く方針を掲げてきました。1977年には、のちに同社の象徴的なCruとなるチェッレタルト(Cerretalto)の畑を取得。1978年に初のブルネッロを瓶詰めしています。
現在は息子のジョヴァンニ・ネリが中心となり、伝統的な大樽熟成を尊重しながら、区画選定や醸造管理を精密に行うスタイルを確立しました。単一畑のCerretalto、Tenuta Nuova、伝統的表現を担うWhite Labelなど、異なるキュヴェを通じてモンタルチーノの複数の表情を示してきた造り手です。国際的な批評家からも高く評価され、現代ブルネッロを語るうえで欠かせない名門の一つとされています。
このBrunello di Montalcinoは、DOCG規定に従ってサンジョヴェーゼ100%で造られます。カサノヴァ・ディ・ネリはモンタルチーノ域内に点在する自社畑を所有し、北東部チェッレタルト周辺の粘土質を含む土壌、北西部ピエトラドニーチェ近辺の石灰質・岩石質土壌、南東部のより温暖な区画など、それぞれのTerroirを使い分けています。スタンダードのブルネッロは単一畑名を冠する上級キュヴェとは異なり、ヴィンテージの調和を重視した複数区画の選抜です。
収穫したブドウは区画ごとに醸造され、ステンレスタンクで発酵・マセラシオンを実施します。果皮との接触によって色調、タンニン、香りの骨格を引き出した後、主に大きなスラヴォニア産オーク樽で長期熟成。ブルネッロの規定を満たす十分な樽熟成と瓶内熟成を経て出荷されます。新樽香で果実を覆うのではなく、サンジョヴェーゼの酸、土っぽさ、熟成のニュアンスを整える醸造哲学が核です。温暖で安定した2015年は、モンタルチーノでは果実の充実と均整の取れたタンニンを得やすかった優良年として、広く評価されています。
外観は中心部に深みのあるルビーからガーネットを帯びた赤。縁には熟成の始まりを思わせる透明感が現れ、グラスの内側をゆっくり流れる粘性が、凝縮感を静かに伝えます。第一香では熟したチェリー、サワーチェリー、赤スグリ、プラムに、乾燥したバラやスミレの気配が重なります。
空気に触れるにつれ、杉、甘草、紅茶、なめし革、バルサミコ、タバコの葉、砕いた石を思わせるニュアンスが開きます。アタックは豊かな赤系果実の甘みを伴いつつ、サンジョヴェーゼらしい生き生きとした酸が輪郭を与えます。中盤ではきめ細かながら量感のあるタンニンが広がり、果実、スパイス、土壌由来の風味が一体化。余韻は長く、ドライハーブと鉄分を思わせるミネラル感を残します。すでに複雑性を楽しめますが、適切な保管下ではなお数年から十年程度、熟成による変化を期待できるスタイルです。
このワインには、酸とタンニンを受け止める旨味の深い肉料理がよく合います。第一に、トスカーナらしい牛肉の炭火焼き、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナがおすすめです。骨付きTボーンを強火で香ばしく焼き、塩、黒胡椒、オリーブオイルで仕上げることで、肉の脂と焦げの風味にワインのチェリー香と酸が寄り添います。
赤ワインでじっくり煮込む猪のラグーを手打ちパッパルデッレに絡めた一皿も好相性です。猪の野性味、トマトの酸味、ジュニパーベリーやローズマリーの香りが、ブルネッロの革やバルサミコのニュアンスを引き立てます。鴨胸肉のローストにポルチーニ茸のソテーと赤ワインソースを添える料理、あるいは仔羊の香草焼きも有力です。熟成したペコリーノ・トスカーノやパルミジャーノ・レッジャーノを食後に合わせるなら、ワインの余韻をゆっくり味わえます。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCGは、トスカーナ州シエナ県のモンタルチーノ市域だけに認められた銘醸地です。世界遺産ヴァル・ドルチャ(オルチャ渓谷)の北西に位置し、町を中心に標高およそ120〜600メートルの起伏ある丘陵が広がります。北にはシエナ、南にはモンテ・アミアータがあり、標高、斜面の向き、風の通り道、土壌の差がワインの個性を大きく分けます。
たとえば北部から北東部のチェッレタルト周辺は粘土を含む土壌が知られ、力強さと深みを備えたワインを生みやすいとされます。一方、北西部のピエトラドニーチェ周辺では石灰岩やガレストロ、岩石の要素がみられ、緊張感のある酸とミネラル感につながる傾向があります。南部のサンタンジェロ・イン・コッレ、カステルヌオーヴォ・デッラバーテ方面は日照量が豊かで、より豊満な果実味を備えやすい地域です。2015年のカサノヴァ・ディ・ネリは、こうしたモンタルチーノの地勢を織り合わせ、力強さだけで終わらない均衡を表現しています。国内市場での推定価格は約32,000円で、熟成ポテンシャルと生産者の評価を踏まえた価格帯といえるでしょう。
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