ローヌ南部を代表する名門、シャトー・ボーカステルの2017年。ムールヴェードルを核に13品種を用い、クルテゾンの丸石と粘土質土壌から、黒系果実、ガリーグ、野性味、端正な緊張感を備えた長命なシャトーヌフ・デュ・パプを生み出します。

シャトー・ボーカステルの起源は、ペラン家がこの地所を取得した1909年にさかのぼります。第二次世界大戦後の1944年、ジャック・ペランが家業を継ぎ、シャトーヌフ・デュ・パプの伝統を深く見つめ直しました。とりわけ注目すべきは、当地でグルナッシュ偏重が進むなか、ムールヴェードルを重視し、認可される13品種すべてをブレンドに生かしたことです。
ペラン家は1950年代から化学肥料や除草剤に依存しない栽培を進め、1974年にはビオディナミを導入した先駆者としても知られます。現在もマルク、ピエール、トマ、セザールら次世代を含む一族が運営し、南ローヌを代表する生産者として世界的な評価を確立しています。力強さだけでなく、熟成によって真価を増す構成美を追求する姿勢こそ、ボーカステルの個性です。
この赤は、ムールヴェードル約30%、グルナッシュ約30%を中心に、クノワーズ、シラー、サンソー、さらにヴァカレーズ、テレ・ノワール、ミュスカルダンなどを加える伝統的なアッサンブラージュです。年ごとの収穫内容で比率は調整されますが、ムールヴェードルの存在感が際立つ点は、ボーカステルの揺るぎない特徴でしょう。黒い果実、スパイス、肉付き、熟成ポテンシャルを担うこの品種が、温暖な南ローヌに輪郭と陰影を与えます。
畑はアペラシオン北東部、クルテゾン村に近いシャトー周辺に広がります。海洋性モラッスと粘土、石灰質を基盤とし、表土を覆うガレ・ルレ、すなわち大きな丸石が昼の熱を蓄えて夜間に放出します。一方、粘土は乾燥期にも水分を保ち、強いミストラルは病害を抑えます。収穫は手摘みで行われ、選果後は品種と区画ごとに醸造されます。グルナッシュやクノワーズはコンクリート槽、ムールヴェードルやシラーは木製槽を主に用い、個性を損なわぬよう穏やかに発酵。ブレンド後、伝統的な大樽フードルでおよそ12〜15か月熟成させます。
2017年は南ローヌで高温かつ乾燥した生育期となり、収量は抑えられた一方、健全で凝縮度の高い果実が得られた年です。評論家からも、濃密さとフレッシュさを併せ持つボーカステルとして高く評価される傾向があります。
グラスでは中心部が深いガーネットから黒みを帯びたルビーを示し、縁には熟成の始まりを思わせる赤褐色のニュアンスがのぞきます。粘性は豊かで、ゆっくりとした涙が濃度を伝えます。第一香はブラックベリー、カシス、黒スグリ、熟したプラム。時間とともにドライハーブ、ガリーグ、黒胡椒、甘草、燻製肉、なめし革、土、ほのかなトリュフへと複雑に開いていきます。
アタックは凝縮した黒系果実の旨味と滑らかな厚みが印象的です。中盤ではムールヴェードル由来の野性味、クノワーズの白胡椒を思わせる香味、酸の芯が折り重なり、アルコール感を抑えた均整へと向かいます。余韻には石質感のあるタンニン、リコリス、乾いたハーブが長く残ります。今も楽しめますが、十分な熟成能力を備え、適切な保管下ではさらに複雑さを深めると期待されます。市場価格は流通状態や輸入元で差が大きいものの、推定約85,000円という価格帯では、来歴と保管状態を確認して選びたい1本です。
このワインには、果実味とタンニンを受け止める脂質、そしてハーブや焼き目の香ばしさを備えた料理がよく合います。第一の候補は、仔羊の背肉をローストし、ローズマリー、タイム、ニンニクを効かせた一皿です。羊の甘い脂とローストの香りが、ワインのガリーグと肉のニュアンスを自然につなぎます。
鴨胸肉のロティに赤ワインと黒オリーヴのソースを添える料理も好相性です。皮目を香ばしく焼き、火入れをロゼに留めれば、ムールヴェードルの黒果実と野性味が際立ちます。牛すね肉を黒胡椒、ジュニパーベリー、根菜とともに赤ワイン煮込みにしたドーブも、熟成感を楽しむ好例でしょう。さらに、猪や鹿の赤ワイン煮、あるいは熟成したコンテやサレールなどのハードチーズも、余韻にある土っぽさとスパイスを引き立てます。供出温度は16〜18℃が目安で、若々しい緊張が残る場合は1〜2時間前の抜栓またはデキャンタージュが有効です。
シャトーヌフ・デュ・パプAOCは、ローヌ川東岸のヴォクリューズ県に位置し、シャトーヌフ・デュ・パプ村を中心に、クルテゾン、ベダリッド、ソルグの一部までを含みます。ボーカステルはアペラシオン北東寄り、クルテゾン村との境界に近い場所にあり、ローヌ川沿いの低地よりも複雑な土壌構成を享受します。
このAOCは一枚岩ではありません。南部のラ・クロ―のような厚いガレ・ルレで知られる区画、砂質が優勢でグルナッシュに繊細さを与えるレイユやピニャン、石灰質と粘土質が張りをもたらす北部区画など、多様なTerroirが共存します。ボーカステルの畑では丸石の蓄熱、粘土の保水性、石灰質由来の緊張感が重なり、さらに北西から吹くミストラルが果実を健全に保ちます。プロヴァンスと地中海の光を受けながらも、単なる陽気な濃厚さに終わらない深みは、このクルテゾン周辺の土地と、品種多様性を守る醸造哲学の結晶です。
本レビューは公開されている専門家評価・市場情報を AI が集約した推定値であり、執筆者による実飲に基づくものではありません。