メドック格付け第五級ながら、しばしば格付けを超える評価を受けるシャトー・ランシュ・バージュ。傑出したボルドー左岸年とされる2015年は、黒系果実、杉、鉛筆の芯を思わせる端正な香りと、緻密なタンニンを備えた長期熟成型のポイヤックです。

シャトー・ランシュ・バージュの歴史は、アイルランド出身のトマス・リンチが1749年にポイヤックの土地を相続したことにさかのぼります。後に「バージュ(Bages)」の名が加わり、現在のシャトー名が形づくられました。1855年のメドック格付けでは第五級に列せられていますが、その品質と知名度はしばしば格付け以上と評され、ポイヤックを代表する実力派シャトーの一つです。
1939年にジャン=シャルル・カーズが取得して以降、カーズ家が運営を担ってきました。とりわけ息子のジャン=ミシェル・カーズは、収量管理、区画別醸造、衛生管理の徹底を通じ、1970年代以降の品質を大きく押し上げた人物として知られます。豪奢さだけに寄りかからず、カベルネ・ソーヴィニヨンらしい骨格、明快な果実味、年月によってほどける古典的なポイヤックの気品を両立させることが、このシャトーの哲学です。2015年は評論家・愛好家の間でボルドー左岸の優良年として広く評価されており、ランシュ・バージュの力強さと精度がよく表れた年とされています。
畑はポイヤック村南部、ジロンド川に近いバージュの集落周辺に広がります。中心となるのは、深く水はけに優れたギュンツ氷期由来の礫質土壌です。礫の下には砂礫層や粘土を含む区画もあり、カベルネ・ソーヴィニヨンには成熟の遅い年でも熱を蓄えながら根を深く伸ばせる環境を、メルロにはふくらみとしなやかさを与えます。ポイヤックの中でもサン・ジュリアン寄りに位置する畑であり、力強い骨格のなかに比較的なめらかな質感を感じさせる要因の一つです。
2015年のブレンドは、カベルネ・ソーヴィニヨン69%、メルロ26%、カベルネ・フラン3%、プティ・ヴェルド2%です。主体となるカベルネ・ソーヴィニヨンが黒スグリ、鉛筆の芯、力強いタンニンを担い、メルロが熟した果実の厚みを補います。収穫されたブドウは区画ごとに選別され、温度管理されたステンレスタンクで発酵・醸しを実施。試飲を重ねて最終ブレンドを決め、フレンチオーク樽で約18カ月熟成されます。新樽比率はおよそ75%で、樽香は存在感を示しながらも、バージュのTerroirを覆い隠さないよう緊密に組み込まれています。
外観は、中心部に深いガーネットから紫がかったルビーをたたえ、縁にはまだ若々しい赤紫のニュアンスが残ります。粘性は中程度からやや高く、凝縮した果実味とエキス分を予感させます。第一香ではカシス、ブラックベリー、熟したダークチェリーが明瞭で、ミント、スミレ、黒鉛、杉の木箱、湿った土といったポイヤックらしい要素が重なります。
空気に触れて開くにつれ、葉巻の煙、革、甘草、焙煎したコーヒー、鉛筆削りを思わせる香りが現れ、フレンチオーク由来のバニラやスパイスも果実の奥から穏やかに立ち上がります。味わいのアタックは豊かでありながら輪郭が鮮明です。中盤では黒系果実の密度、グラファイトの塩味を帯びたニュアンス、きめ細かながら量感のあるタンニンが層を成します。余韻は長く、カシス、杉、スパイス、土の気配が持続します。すでに飲み頃へ入りつつありますが、良好な保管下でさらに10年以上の熟成にも応える構成です。市場価格は約35,000円が一つの目安で、状態、流通経路、付属品の有無によって変動します。
このワインには、タンニンを受け止めるたんぱく質と、香りの複雑さに呼応する焼き目や旨味を備えた料理が合います。第一に薦めたいのは、仔羊背肉のロースト、ローズマリーとニンニクの香り、ジュのソースです。羊の脂とハーブがカベルネの黒系果実や杉のニュアンスを引き立てます。
牛フィレ肉の炭火焼きに赤ワインとエシャロットのソースを添えた一皿も好相性です。炭火の香ばしさが樽熟成由来のロースト香と結びつき、肉の繊細さを損なわずにタンニンをなめらかに感じさせます。鴨胸肉のロティ、カシスを少量加えたソースも、果実の熟度と酸の均衡を楽しめる組み合わせです。熟成感を強調するなら、セップ茸とポルチーニ茸のリゾット、あるいはジビエの鹿肉を赤ワインで煮込んだ料理も適しています。供出温度は16〜18度を目安とし、若い印象が強いボトルではデキャンタージュによって香りが整いやすくなります。
ポイヤックAOCは、ボルドー市の北西、メドック半島のジロンド川左岸に位置します。行政上はポイヤック村を核とするアペラシオンで、北はサンテステフ、南はサン・ジュリアンに接しています。ジロンド川がもたらす水温の緩和作用により、春の霜や秋の急激な冷え込みが和らげられ、晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンを完熟へ導きやすい気候です。
シャトー・ランシュ・バージュの畑があるバージュは、村の南側、サン・ジュリアンとの境界に近い小集落です。ポイヤックには単独の畑名を前面に出すブルゴーニュのClimatとは異なる文化がありますが、バージュ、バターユ、ランシュ、ピブランといった歴史的なLieu-ditや台地の名が、各シャトーの個性を語る重要な手がかりになります。砂利の多い緩やかな隆起部は排水性に優れ、過度な生育を抑えて小粒で凝縮した果実を生みます。こうした礫、粘土、川の影響が織り成すTerroirこそが、2015年のランシュ・バージュに、豊かな成熟感とポイヤックらしい緊張感を与えています。
本レビューは公開されている専門家評価・市場情報を AI が集約した推定値であり、執筆者による実飲に基づくものではありません。