グラーヴ地区の格付けシャトー、シャトー・スミス・オー・ラフィットが手がける2016年。マルティヤックの砂礫質土壌が育むカベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤は、黒果実、杉、スモーキーな鉱物感を備え、力強さと精密な酸を併せ持ちます。

シャトー・スミス・オー・ラフィットの起源は14世紀、1365年に記録されるヴェルテイユ・デュ・オー・ラフィットの地所にさかのぼります。18世紀にはスコットランド出身のワイン商ジョージ・スミスが所有し、良質なワインを英国へ送り出したことから、現在につながる「スミス」の名が定着しました。ボルドー南部グラーヴ地区において、赤・白の双方がグラーヴ格付けに選ばれた数少ない生産者の一つであり、ペサック・レオニャンを代表する存在です。
転機は1990年、スポーツ用品企業で成功したダニエルとフロランス・カティアール夫妻の取得でした。夫妻は傷んでいたブドウ畑と醸造設備を長期的な視野で再生し、区画ごとの個性を尊重する栽培と重力を活かした醸造を導入しました。樽工房を自ら備え、森林や養蜂を含む敷地全体を一つの生態系として捉える姿勢も、このシャトーの哲学をよく物語ります。環境への配慮を徹底したブドウ栽培へ移行し、今日では精緻さと熟成力を兼備するトップ・シャトーとして広く評価されています。
2016年の赤は、カベルネ・ソーヴィニヨン59%、メルロ36%、カベルネ・フラン4%、プティ・ヴェルド1%のブレンドです。平均樹齢はおよそ38年。シャトーを取り巻く高台には、ギュンツ氷期由来とされる深い砂礫層が広がり、その下の粘土質土壌が乾燥した年にも水分を支えます。水はけに優れる礫質土壌はカベルネ・ソーヴィニヨンの成熟を促し、粘土を含む区画ではメルロにふくらみとしなやかさを与えます。
収穫は区画ごと、さらに選果を経て行われます。温度管理された木製発酵槽で品種・区画別に醸造し、抽出は果実の状態を見極めながら穏やかに進められます。その後のマロラクティック発酵を経て、フレンチオーク樽で約18か月熟成。新樽比率は約60%とされますが、樽香を前面に置くのではなく、果実と砂礫由来のミネラル感に骨格を与える設計です。温暖で乾燥した夏と、成熟期に理想的な天候が続いた2016年は、ボルドー左岸で傑出した年の一つと評価され、凝縮感と鮮度の両立が期待されます。市場価格は流通条件によって幅があるものの、国内ではおおむね2万5,000円前後が目安です。
外観は中心部まで深いガーネットから紫を帯びたルビー。グラスの内側をゆっくり伝う粘性には、熟度と凝縮したエキスが表れます。第一香ではカシス、ブラックベリー、熟した黒スグリに、スミレ、黒鉛、湿った砂礫を思わせるニュアンスが重なります。空気に触れるにつれて、杉、葉巻の箱、燻製、甘草、ダークチョコレート、ローストした樽由来のスパイスが現れ、香りは層を増していきます。
アタックは豊かな黒果実の密度を感じさせながら、2016年らしい張りのある酸が輪郭を鮮明にします。中盤では細かく熟したタンニンが果実味を包み、メルロの丸みとカベルネの直線的な骨格が均衡します。後半には土壌を思わせる塩味、鉛筆の芯、焙煎香が伸び、余韻は非常に長く端正です。すでに複雑さを楽しめる段階にありますが、適切なセラーではさらに10年以上、森の下草や革、トリュフの趣を深める可能性があります。供出するなら16〜18℃を目安にし、若いボトルでは1〜2時間のデカンタージュが有効です。
このワインの緻密なタンニンとスモーキーな余韻には、香ばしさと旨味を備えた肉料理がよく合います。まず、仔羊の背肉をローズマリーとニンニクでローストし、ジュのソースに黒オリーブを加えた一皿。羊の脂の甘みを酸が引き締め、ハーブはカベルネの青いニュアンスと響き合います。
牛肉なら、和牛よりも適度に赤身のある国産牛ランプの炭火焼きに、赤ワインとエシャロットのソースを添える組み合わせが適します。炭の香りがワインの杉や燻香を引き立て、肉の旨味が中盤の厚みを受け止めます。鴨胸肉のロースト、カシスと黒胡椒のソースも好相性です。さらに、赤ワインでじっくり煮込んだ猪肩肉のドーブ、またはポルチーニ茸と熟成コンテを使ったリゾットなら、熟成によって現れる土っぽさやトリュフ香とのつながりが生まれます。
シャトーはボルドー市中心部の南約20km、ジロンド県マルティヤック村に位置します。行政的にはペサック・レオニャンAOCの南部、歴史的にはグラーヴ地区の核心にあたり、「Graves」という名そのものが砂礫を意味します。ガロンヌ川が運んだ礫がつくる台地は日中の熱を蓄え、夜間には放熱するため、晩熟型のカベルネ・ソーヴィニヨンに安定した成熟をもたらします。
畑は森林に囲まれた砂礫の丘にあり、海洋性気候の影響を受けます。西の大西洋から届く湿潤な風は病害リスクにもなりますが、近隣の松林が風を和らげ、区画ごとの差異を生み出します。シャトー・オー・バイイ、シャトー・パプ・クレマンなど名だたる生産者と同じペサック・レオニャンの系譜にありながら、マルティヤックの深い礫質土壌は、力強さの中に冷涼な緊張感を残すスミス・オー・ラフィット独自のTerroirを形づくっています。
本レビューは公開されている専門家評価・市場情報を AI が集約した推定値であり、執筆者による実飲に基づくものではありません。