クロ・アンリのプティ・クロ ソーヴィニヨン・ブラン 2022は、ロワールのサンセールで培った感性をマールボロの礫質土壌へ移した1本です。ライムや白スグリの鮮烈さ、ハーブの涼やかさ、澄んだ酸とミネラル感を、畑と産地の背景から読み解きます。

Clos Henri Vineyardは、フランス・ロワール地方サンセールで代々ワイン造りを続けるアンリ・ブルジョワ家が、2000年にニュージーランドのマールボロで始めたドメーヌです。同家はサンセールのChavignol(シャヴィニョル)を拠点とし、石灰質の名高い畑を擁する生産者として広く知られています。その一家が、ソーヴィニヨン・ブランに適した新たなTerroirを求め、南半球に自らの畑を購入したことがクロ・アンリの出発点でした。
名の「Henri」は、家族の伝統を象徴する存在であるアンリ・ブルジョワに由来します。単にロワールの様式を移植するのではなく、マールボロの光、風、土壌を表現することが哲学です。畑では有機栽培を軸とし、区画ごとの土壌差を尊重した管理を実践しています。マールボロにおいてフランスの由緒あるソーヴィニヨン・ブラン生産者が本格的に根を下ろした代表例の一つであり、ニュージーランドらしい果実味と、サンセール的な緊張感を結び付ける造り手として評価されています。
Petit Clos Sauvignon Blanc 2022は、ソーヴィニヨン・ブラン100%によるキュヴェです。「Petit Clos」は、単一畑の個性を強く打ち出す上級キュヴェ群に対し、クロ・アンリの複数区画が見せるバランスを表現する位置付けといえます。ブドウは主にブレナム周辺の自社畑から得られ、ワイラウ・ヴァレーに見られるGreywacke(グレイワッケ)由来の丸い礫質土壌、粘土を含む区画など、多様な土壌の要素がブレンドに生かされます。
マールボロのソーヴィニヨン・ブランは、強い日照と冷涼な夜によって香りと酸を保ちやすいことが特徴です。クロ・アンリでは収穫した果実を丁寧に扱い、低温管理したステンレスタンクで発酵させることで、品種本来の柑橘、ハーブ、トロピカルフルーツの表情を明瞭に引き出します。熟成もフレッシュさを損なわない方針が中心で、澱との接触による穏やかな質感を与えながら、樽香で輪郭を覆わないスタイルです。2022年は、清潔な果実味と土壌由来のドライな感触に焦点が合うヴィンテージと捉えられます。
外観は、わずかに緑のニュアンスを帯びた淡いレモンイエローです。粘性は軽快から中程度で、グラスの内側を流れる脚にも過度な重さはありません。第一香では、ライム、グレープフルーツ、白スグリ、青リンゴがすがすがしく立ち上がり、マールボロらしいパッションフルーツや熟したグーズベリーの気配が続きます。空気に触れるにつれて、エルダーフラワー、レモングラス、摘みたてのハーブ、ほのかな火打石を思わせるミネラル香が現れます。
アタックはきりりとドライで、鋭さだけに寄らない、よく熟した柑橘の果実味があります。中盤では白桃を思わせる柔らかな果実の層に、礫質土壌を連想させる塩味と細かな苦味が重なります。活力ある酸が味わいを一直線に導き、余韻にはライムピール、ハーブ、石を思わせる乾いたニュアンスが長く残ります。冷やしすぎず、8〜10℃ほどから少し温度を上げながら味わうと、香りとテクスチャーの広がりを追いやすくなります。
このワインの酸とハーブ香は、素材の鮮度を生かした料理とよく響き合います。まず、牡蠣にレモンとエシャロットのミニョネットソースを添える一皿は、ワインの塩味と柑橘の輪郭を素直に引き立てます。真鯛の昆布締めに青柚子、オリーブオイル、少量の塩を合わせる前菜も、繊細な旨味を損なわない好相性です。
温かい料理なら、アスパラガスと帆立貝のソテーを焦がしバターではなくレモンバターで仕上げる調理がおすすめです。ソーヴィニヨン・ブランの青い香りがアスパラガスと自然につながり、帆立の甘さを酸が引き締めます。さらに、鶏むね肉のハーブグリル、フェンネルとグレープフルーツのサラダ、山羊乳チーズをのせたタルトも好適です。とりわけロワールとの精神的なつながりを感じさせる、クロタン・ド・シャヴィニョルのような山羊乳チーズとの組み合わせは試す価値があります。
マールボロはニュージーランド南島北東部に位置し、中心都市ブレナムを軸にワイラウ・ヴァレー、アワテレ・ヴァレー、南側のサザン・ヴァレーへとブドウ畑が広がります。Clos Henri Vineyardの畑はブレナム周辺、ワイラウ・ヴァレーの環境を基盤としています。西から東へ流れるワイラウ川が長い時間をかけて運んだ礫は、水はけに優れ、ブドウ樹に適度なストレスを与えます。一方で粘土を含む区画は保水性と果実の量感に寄与し、同じソーヴィニヨン・ブランにも異なる表情をもたらします。
背後にはリッチモンド山脈やウィザー・ヒルズの地形があり、冷涼な夜と乾いた生育期を支える要因となります。日中の十分な陽光は果実を成熟させ、昼夜の寒暖差は酸と香気成分を保ちます。海洋性の影響を受ける冷涼な気候、沖積礫、粘土という組み合わせこそが、マールボロを世界的なソーヴィニヨン・ブラン産地へ押し上げた背景です。Petit Clos 2022は、その土地の快活な香りを備えつつ、クロ・アンリが求める土壌の輪郭と端正さを映した1本です。
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