ブルゴーニュの名門ジョゼフ・ドルーアンが手がけるボージョレ2019は、ガメイらしい赤い果実の親しみやすさと、端正な酸、花崗岩質土壌に由来する軽快な輪郭を備えた一本です。産地表記に混同されやすいシャブリとの違いにも触れながら、その背景と楽しみ方を紐解きます。

ジョゼフ・ドルーアンは、ジョゼフ・ドルーアンが1880年にコート・ドールのボーヌで創業した、ブルゴーニュを代表するネゴシアン兼ドメーヌです。創業者は樽商として出発し、ほどなく良質なワインの販売へ軸足を移しました。現在はドルーアン家が代々培ってきた畑の知識と、栽培家との長期的な関係を基盤に、シャブリからマコネ、コート・ドール、ボージョレまでをカバーしています。
同社を語るうえで欠かせないのが、畑ごとの個性を最優先する姿勢です。自社畑では有機栽培・ビオディナミへの取り組みを進め、購入果実や購入ワインにおいても、生産地と栽培者を厳しく選ぶ方針を掲げます。ボーヌのPremier CruであるClos des Mouchesをはじめ、Corton-Charlemagne、Musignyなど著名なCruを擁することでも知られます。1987年には家族が米国オレゴン州にDomaine Drouhin Oregonを創設し、ピノ・ノワールの可能性をブルゴーニュの外へ広げたことも、同社の代表的なエピソードです。
このボージョレは、ボージョレAOCのガメイ種を主体とする赤ワインです。ガメイは薄い果皮と生き生きとした酸を特徴とし、重厚さよりも、赤い果実、花、スパイスを思わせる表情で魅力を示します。ジョゼフ・ドルーアンのボージョレは単一の畑名を冠するCru Beaujolaisではなく、複数の栽培地から選ばれた果実によって、地域らしさと年ごとの均整を表現するキュヴェと位置づけられます。
一般にボージョレでは、果房内発酵を利用するマセラシオン・カルボニック、またはその要素を取り入れたセミ・カルボニックが重要です。果実の鮮やかな香りを引き出し、過度なタンニン抽出を避ける手法であり、ドルーアンでも原料の状態を見極めながら、フレッシュさを損なわない穏やかな醸しが重視されます。発酵後は主としてタンクで熟成させ、樽香で覆うよりガメイ本来の輪郭を保つスタイルです。したがって、バニラやロースト香よりも、果実、酸、土壌由来のニュアンスを楽しみたい銘柄といえます。
2019年はボージョレで成熟度の高い果実が得られつつ、酸を保った年として評価される傾向があります。標準的なボージョレとしては異例に約50,000円という市場推定価格が提示される場合、通常の流通価格帯とは大きく隔たりがあるため、限定セット、熟成保管、出品情報、容量、来歴を購入前に確認することが肝要です。
外観は、若々しい紫がかったルビーから明るいガーネット寄りの赤。液面には澄んだ光沢があり、粘性は軽快から中程度です。第一香では、フレッシュなラズベリー、赤チェリー、クランベリー、紫スミレを思わせる香りが前に出ます。空気に触れるにつれ、バナナを連想させる発酵由来の軽い甘やかさ、白こしょう、ドライハーブ、湿った石のようなニュアンスが重なります。
口に含むと、アタックはしなやかで果実味が素直に広がります。中盤では赤いベリーの酸味が味わいを引き締め、タンニンは細かく、渋みが前面に立ちません。2019年らしい熟したチェリーの丸みを感じさせながらも、重くなりすぎないのが魅力です。余韻にはザクロ、紅茶、かすかな土っぽさが残り、軽やかな飲み心地のなかに端正な持続感をもたらします。13〜15℃ほどのやや低めの温度で供すると、果実と酸のバランスが明瞭になります。
親しみやすい果実味と穏やかなタンニンは、脂の強すぎない肉料理、きのこ、鶏肉と好相性です。まず薦めたいのは、鶏もも肉をエシャロット、マッシュルーム、白ワインで煮込む「コック・オー・ヴァン」です。煮込みの旨味にワインの赤い果実味が寄り添い、酸がソースを軽く整えます。
和食なら、鴨ロースを低温で火入れし、山椒と赤ワインのソースを添えた一皿が向きます。鴨の鉄分を思わせる風味に、ガメイの酸と花の香りがよく響きます。豚肩ロースのローストに、りんごと粒マスタードのソースを合わせる組み合わせも有効です。さらに、焼きしいたけと舞茸をのせたリゾット、あるいは生ハム、コンテ、ブリーを中心にしたシャルキュトリーとチーズの盛り合わせも、気負わない食卓に自然に馴染みます。
産地はシャブリではなく、原則としてローヌ県北部とソーヌ・エ・ロワール県南部にまたがるボージョレAOCです。シャブリはヨンヌ県のシャルドネによる白ワイン産地であり、ジョゼフ・ドルーアンもシャブリを手がけますが、この赤のボージョレとは品種もTerroirも異なります。販売データなどで「Chablis」と併記されている場合は、生産者の取扱地域情報との混同である可能性があります。
ボージョレ地区は、ヴィルフランシュ・シュル・ソーヌの北西から、ソーヌ川を望む丘陵へと連なります。南部のPierres Dorées(黄金の石)の石灰岩・粘土質土壌では、柔らかく果実味豊かなワインが生まれやすく、北部のモルゴン、フルーリー、ムーラン・ナ・ヴァン、コート・ド・ブルイなどでは、花崗岩や片岩を背景に、より緊張感と骨格を備えたCruが育まれます。大陸性気候に地中海性の影響がわずかに交わり、丘の標高や斜面の向きがガメイの表情を細やかに変える地域です。
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