ティニャネロ2017は、歴史的な暑さと乾燥に見舞われたトスカーナで生まれた、力強く端正な赤ワインです。サンジョヴェーゼを主軸にカベルネを重ね、熟した果実、バルサミコ、緻密なタンニンを備えます。スーパータスカンを象徴する一本の背景をひもときます。

Marchesi Antinori(マルケージ・アンティノリ)のワイン史は、ジョヴァンニ・ディ・ピエロ・アンティノリがフィレンツェのワイン醸造家組合に加入した1385年にさかのぼります。以後26代にわたり家族経営を継続してきた、イタリアを代表するワイン生産者です。キャンティ・クラシコにおける伝統を守りながら、品種選択、樽熟成、畑の区画管理を通じて改革を進め、現代イタリアワインの国際的評価を押し上げた存在として知られます。
その転機となったのが、サンジョヴェーゼに国際品種を組み合わせ、従来のキャンティの規定に縛られない高品質ワインを目指したティニャネロです。1970年が初ヴィンテージで、白ブドウを加えないサンジョヴェーゼ主体のスタイルを1975年ヴィンテージから確立しました。当時はキャンティDOCの枠外となり、テーブルワイン扱いを受けながらも評価を高めたため、「スーパータスカン」を語るうえで欠かせない銘柄となりました。現在はIGTトスカーナとしてリリースされますが、その精神は制度よりもTerroirと品質を優先する点にあります。
ティニャネロ2017は、アンティノリ家が所有するテヌータ・ティニャネロの単一畑に由来します。畑はキャンティ・クラシコの中心域、フィレンツェ県サン・カシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーザの丘陵にあり、標高はおよそ350〜400メートル。約57ヘクタールのティニャネロ畑は南西向きの区画を含み、石灰質のアルベレーゼと、片岩質のガレストロを主とする痩せた土壌が根を深く伸ばさせます。
2017年のブレンドはサンジョヴェーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニヨン15%、カベルネ・フラン5%です。品種と畑区画ごとに収穫・醸造を行い、温度管理された円錐形タンクで発酵と果皮浸漬を実施します。マロラクティック発酵を経たのち、フレンチオークおよびハンガリー産オークの小樽で約14〜16カ月熟成させ、各ロットを吟味してブレンドします。新樽だけに頼らず、一度使用した樽も組み合わせる方針が、果実の輪郭と木樽の風味を拮抗させています。
グラスでは、縁にわずかなガーネットのニュアンスを伴う濃いルビー・レッドを見せます。粘性は中程度からやや高く、凝縮した2017年の成熟感を予感させます。注ぎたての第一香には、ブラックチェリー、熟したプラム、カシス、乾いたスミレが現れます。空気に触れるにつれて、杉、タバコの葉、甘草、クローヴ、黒鉛、バルサミコを思わせる香りが重なり、サンジョヴェーゼらしい酸の明るさとカベルネ由来の陰影が交差します。
アタックは豊かで丸みがありますが、甘さに寄りすぎず、酸がすぐに骨格を与えます。中盤では熟した黒系果実、ほろ苦いカカオ、ハーブのニュアンスが広がり、きめ細かくも量感のあるタンニンが味わいを引き締めます。暑く乾燥した2017年は収量に影響した一方、健全な果実を選別した生産者のワインには濃度と均衡が備わる年とされます。余韻にはスパイス、土、紅茶の葉のような複雑さが長く残ります。評論家・愛好家の間でも、早くから親しみやすい果実味を持ちながら、十分な熟成能力を備えたヴィンテージとして評価される傾向があります。供出時は16〜18℃を目安に、若いボトルなら1〜2時間のデキャンタージュが有効です。
ティニャネロ2017には、果実の密度と酸、タンニンの双方を受け止める肉料理がよく合います。第一に薦めたいのは、ローズマリーとニンニクを効かせたフィレンツェ風Tボーンステーキ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナです。炭火の香ばしさと赤身肉の旨味が、ワインの黒系果実とスモーキーな樽香を引き立てます。
仔羊のローストにセージ、黒オリーブ、焼きレモンを添える一皿も好相性です。羊の脂をサンジョヴェーゼの酸が整え、ハーブがワインのバルサミコや地中海性の香りと響き合います。煮込み料理なら、猪肉を赤ワイン、ジュニパーベリー、トマトでゆっくり煮込むパッパルデッレ・アル・チンギアーレが適します。さらに、ポルチーニ茸と熟成ペコリーノを使ったリゾット、あるいは牛頬肉の赤ワイン煮も、余韻にある土っぽさとカカオのニュアンスを美しく引き出します。
ティニャネロの畑が位置するサン・カシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーザは、フィレンツェの南、キャンティ・クラシコDOCGの最北部にあるコムーネです。行政上、ティニャネロはIGTトスカーナであり、キャンティ・クラシコDOCGとしては販売されません。しかし、そのブドウは同地域の丘陵Terroirを明確に映します。周辺にはグレーヴェ・イン・キャンティ、パンサーノ、ラッダ・イン・キャンティへ連なる丘があり、森林、オリーブ畑、ブドウ畑がモザイク状に広がります。
日中は十分な日照を得る一方、標高と夜間の気温低下が酸を保ちます。アルベレーゼの石灰分は緊張感のある酸とタンニンに、ガレストロの砕けやすい石質土壌は排水性と複雑なミネラル感に寄与すると言われています。2017年は春の霜と夏の高温・少雨が記憶される厳しい年でしたが、丘陵の風通しと区画ごとの緻密な管理が品質を支えました。市場価格はおおむね2万円前後が目安ですが、流通量、保管状態、販売時期によって変動します。
本レビューは公開されている専門家評価・市場情報を AI が集約した推定値であり、執筆者による実飲に基づくものではありません。