1858年創業、リオハの近代化を牽引したマルケス・デ・リスカル。グラン・レセルバ2016は、エルシエゴ周辺の古樹から得たテンプラニーリョを中心に、長期の樽熟成と瓶熟成を重ねた一本です。伝統的なアメリカンオークの香りと、端正な酸、熟成による複雑さが調和します。

マルケス・デ・リスカルは、1858年にリオハ・アラベサのエルシエゴで創業した、スペインを代表する歴史的ワイナリーです。当時のリオハでは量産的なワイン造りも少なくありませんでしたが、創業者カミロ・ウルタード・デ・アメサガ侯爵はボルドーから醸造家を招き、衛生的な醸造、樽熟成、瓶詰めという近代的手法をこの地に根づかせました。1862年にはボルドー方式による初のワインをリリースしたとされ、リオハが国際的な銘醸地へ発展するうえで重要な役割を果たしてきました。
1895年、ボルドーの展覧会でフランス国外のワインとして初めて名誉賞を受けたという逸話も、その先駆性を物語ります。現在は伝統的なリオハの熟成美を守りつつ、建築家フランク・ゲーリーが手がけた「シウダ・デル・ビノ(ワインの街)」を擁し、観光と文化の拠点としても知られます。長い時間を品質の一部と捉え、畑の個性を熟成で磨き上げることが、マルケス・デ・リスカルの一貫した哲学です。
グラン・レセルバは、樹齢80年以上に達する古い区画を中心に選んだテンプラニーリョを主役とし、グラシアーノを少量ブレンドする伝統的なキュヴェです。2016年の公表テクニカルデータでは、テンプラニーリョ96%、グラシアーノ4%という構成が示されています。骨格と熟成力を担うテンプラニーリョに、グラシアーノが色調、酸、スパイス感を与えます。
ブドウは主にエルシエゴを含むリオハ・アラベサの古樹畑から収穫されます。石灰質を含む粘土質土壌は、果実に力強さだけでなく、硬質で引き締まった輪郭をもたらす要素です。収穫後は選果を経て温度管理したタンクで発酵させ、果皮とおよそ12日間接触させて色とタンニンを穏やかに抽出します。その後、アメリカンオーク樽で約32カ月熟成し、さらに3年以上の瓶熟成を経て出荷されます。ココナッツ、バニラ、甘いスパイスを伴うアメリカンオークと、長期瓶熟成によるなめらかさは、この銘柄の個性を端的に示します。
2016年はリオハDOCaで「Muy Buena(非常に良い)」と認定された年で、熟度と酸の均衡に期待が寄せられるヴィンテージです。市場価格は流通形態や保管状態で変動しますが、約22,000円がひとつの目安となります。
外観は、熟成の進んだ深いルビーからガーネットへと移ろう色調です。縁にはわずかな赤褐色のニュアンスが現れ、グラスの内側をゆっくり伝う粘性は、凝縮感と熟成の厚みを予感させます。第一香ではブラックチェリー、プラム、カシスのような黒系果実に、乾いたバラ、杉、なめし革、葉巻の印象が重なります。
空気に触れると、アメリカンオーク由来のバニラ、ココナッツ、クローヴ、トースト香がほどけ、森の下草、キノコ、紅茶、甘草といった熟成香が立体的に広がります。口に含んだアタックは丸みがあり、熟した果実味を端正な酸が支えます。中盤ではきめ細かなタンニンが層をつくり、樽由来の甘い香ばしさと土っぽいニュアンスが融合します。余韻は長く、バルサミコ、スパイス、ドライフルーツを思わせるほろ苦さを残して静かに続きます。供出温度は16〜18℃が適し、デキャンタージュは澱の状態を確認しながら30分から1時間ほど行うと、香りが開きやすくなります。
熟成したテンプラニーリョの柔らかなタンニンと複雑な香りには、焼き目や煮込みによる香ばしさを備えた料理がよく合います。まず薦めたいのは、仔羊のローストにローズマリー、ニンニク、オリーブオイルを効かせ、付け合わせに根セロリやじゃがいものピュレを添える一皿です。ラムの脂の甘みとハーブの清涼感が、ワインの果実味とバルサミコのような余韻を引き立てます。
牛頬肉を赤ワインとフォンで長時間煮込み、マッシュルームと小玉ねぎを合わせた煮込みも好相性です。ゼラチン質の豊かなソースが、しなやかなタンニンを包み込みます。和の献立なら、醤油、赤味噌、みりんで照りを出した鴨胸肉のローストに、焼き長ねぎや舞茸を添える組み合わせが向きます。さらに、マンチェゴやコンテのような熟成した羊乳・牛乳チーズ、イベリコ豚の肩ロースを炭火で焼いた料理も、オーク香と熟成香に美しく寄り添います。
生産地のエルシエゴは、スペイン北部アラバ県に属するリオハ・アラベサ地区の町です。リオハDOCaはリオハ・アルタ、リオハ・アラベサ、リオハ・オリエンタルの三地区から成りますが、エルシエゴはエブロ川の北岸側、カンタブリア山脈南麓の高台に位置します。周囲にはラグアルディア、ラポブラシオン、ビリャブエナ・デ・アラバ、レシオハといった村々が連なり、歴史的なワイン畑の景観を形成しています。
大西洋からの冷涼な風はカンタブリア山脈によって適度に和らげられ、一方で日中は内陸性の乾いた日差しを受けます。この昼夜の寒暖差が、テンプラニーリョに香りと酸を保たせるとされています。エブロ川と支流の流れが刻んだ起伏のある地形、石灰質を含む粘土質土壌、古樹の低い収量が重なり、果実の濃さだけに偏らない緊張感を生みます。グラン・レセルバ2016は、エルシエゴ周辺の土地、古い樹、そして長い熟成の時間を、一本のボトルに映したリオハです。
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